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青森地方裁判所 昭和32年(行)6号 判決 1960年3月17日

原告 中村寿男

被告 青森県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し原告所有の八戸市大字鷹匠小路二番地所在家屋番号同大字二番の十映画劇場(床面積六百二十三坪)につき昭和三十二年二月二十二日になした不動産取得税賦課異議の決定は課税標準金一千二百四十九万八千円、税額金四十一万二千四百二十四円を超過する限度でこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、

一、原告は昭和三十一年一月二十九日請求の趣旨記載の映画劇場(以下本件建物という)を新築により取得したものであるが同年十二月十二日本件建物につき不動産取得税の課税標準を金三千五百六十五万二千六百円とし税額金百十七万六千五百三十円を賦課する旨の徴税令書の交付を受けたので同月二十六日被告に対して異議の申立をしたところ、被告は昭和三十二年二月二十二日課税標準金三千二百八十三万一千二百円税額金百八万三千四百二十円と決定し、同月二十五日原告に対してその通知をした。

二、しかし右決定には次のような違法がある。即ち不動産取得税の課税標準は不動産を取得した時における当該不動産の価格とせられるのであるが原告において本件建物の新築に要した費用は別表のとおり金千二百四十九万八千円であるからこの価格を以て課税標準とし、税額はこれに百分の三・三を乗じて得た金四十一万二千四百二十四円とすべきものである。然るに被告は建造物につきなんら専門的知識を有しない者をして本件建物を概観せしめたのみで、例えば(1)セメント、砂利及び鉄骨の使用量は別表のとおり夫々六千三百袋百七十立坪、八十三屯にすぎないのにセメント一万袋以上、砂利百数十立坪以上、鉄骨についても右使用数量より過大に査定し、(2)又鉄骨は原告が昭和二十三年頃日本高周波株式会社八戸工場の解体に際し買取つた古材を使用したのに新品を使用したものとして査定し(3)屋根は木造亜鉛葺であるのに鉄骨、鉄筋を使用したものとの査定をし、(4)客席椅子及びボイラーは何れも動産であるから課税対象とすべきでないのにこれをも不動産に含めて査定するという違法をあえてし、これに自治庁次長通達の基準を杓子定規に当てはめた結果不当に高額の課税標準を算定しているものである。

よつて本件決定のうち前記主張の適正な課税標準及び税額を超過する部分につき取消を求めると述べた。

(立証省略)

被告指定代理人等は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の一、の事実は認める。二、の事実は原告が本件建物の新築のために使用した材料中セメント、砂、砂利、鉄筋及び鉄骨につき別表の1ないし5に掲げる数量を使用したこと及び客席椅子を課税対象に加えたことは認めるがその余の事実は争う。

すべて不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格は地方税法第七十三条第五号、第七十三条の十三第一項により当該不動産を取得した当時における適正な時価とされている。即ちその価格は不動産を新たにその現況において取得するものとして客観的に想定される価格即ち再建築費価格であり、市場価格であつて、決して原告の主張するような不動産の取得価格ではない。そしてこの趣旨に添つた評価の適正と均衡をはかるため地方税法第七十三条の二十一第二項、第三百八十八条第三項に基いて発せられたのが固定資産評価基準(昭和二十九年十一月十九日自乙市発第六十七号自治庁次長通達、以下評価基準という)であるところ、本件異議決定における課税標準の算定に当つては被告において適当と認める徴税吏員をして実地に調査に当らせた上右評価基準により建物の各構成部分毎に定められている標準評点数に現況に応じた適正な補正をなしてその価格を算定したものでなんら過大評価の事実はない。原告の指摘するもののうちセメント、砂利及び鉄骨の使用数量を過大に見積つたとの点は事実に反する。これらについてはいずれも原告の主張する使用数量をそのまま認定しこの数量を基礎にして補正を加えているのであるから原告の右主張は理由がなく、又鉄骨につき古材を使用したのに新材を使用したものとして評価したとの点は仮に主張のとおりであつてもかような材料の新古の如きは評価に当つて格別の考慮を払うべき性質のものではない。屋根については原告主張のとおり木造亜鉛葺であるとの認定に立つて評価しているものであつて決して鉄筋、鉄骨を使用したものとして評価したものではない。更に客席椅子を評価の対象としたことについては劇場映画館の客席椅子のように固定されて家屋と一体となつて効用を果しているものは附帯設備としてこれをも含めて課税の対象となし得るものであつて(地方税法第七十三条の二第四項)、評価基準においてもこれを附帯設備として評価するものとしているのであり他方「ボイラー」は償却資産に属するものとの見解に立ち評価の対象から除外したのであるから原告の主張は失当である。

以上のとおり本件異議の決定にはなんら違法のかどがないと述べた

(立証省略)

理由

原告が昭和三十一年一月二十九日本件建物を新築により取得したところ同年十二月十二日被告から本件建物につき不動産取得税の課税標準を金三千五百六十五万二千六百円とし税額金百十七万六千五百三十円を賦課する旨の徴税令書の交付を受けたので同月二十六日被告に対して異議の申立をしたところ、被告は昭和三十二年二月二十二日課税標準金三千二百八十三万一千二百円、税額金百八万三千四百二十円と改めて決定し、同月二十五日原告に対してその通知をしたことは当事者間に争がない。

そこで以下右異議の決定に原告主張のようなかしがあるかどうかを審按する。原告は不動産取得税の課税標準は現実に不動産の取得に要した価格によるべき旨主張するけれども地方税法第七十三条の十三条第一項によれば不動産取得税の課税標準は不動産を取得したときの不動産の価格とするものとされ、同法第七十三条五号によると右の「価格」とは適正な時価をいうものとされるのであるから同等度の不動産の取得であつても具体的な特殊事情の介入により千差万別であることが予想される取得価格(例えば手持の古材を使用して新築した場合には建物の適正な時価よりははるかに低廉な取得価格が算定されようし、贈与による取得においてはその取得価格は零といえるであろう)の如きは以て公平適正を期すべき課税の標準たらしめ得ないものといわなければならない。しかして地方税法は課税の均衡、公平を期するため前記適正な時価の判定に客観性をもたしめるためその第七十三条の二十一第二項、第三百八十八条第三項により道府県知事は固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていないものについては(本件建物が異議の決定当時固定資産課税台帳に登録されていなかつたことは弁論の全趣旨により明かである)自治庁長官が道府県知事に対して示す評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続に準じて当該不動産の課税標準を決すべきものとしているのであるから被告は右評価基準に従うべく、この点に関する裁量の余地はないものと解すべきである。本件決定における課税標準は被告の当該係員が現地調査を遂げ右地方税法の規定に基く評価基準(昭和二十九年十一月十九日自乙市発第六十七号自治庁次長通達)に従つて算定された額を府県、市町村別建築費指数に応じて補正したものであることは証人小野肇の証言、及びその証言により成立を認め得る乙第一号証の一ないし九及び成立に争のない乙第二三号証並びに真正に成立したものと認める乙第四号証により明かである。そして右乙第一号証の一ないし九に弁論の全趣旨を綜合すると右評価基準は六大都市及びその周辺に所在する各種の建物につき各構成部分別の使用材料の種別及びその基準使用量を実地に調査しその基準使用量に対する昭和二十七年一月平均の東京小売物価水準による工事費を算出することにより各構成部分毎の標準値を示し、これを更に具体的な不動産の形態、使用材料の数量及び価格の地域差等に着目した詳細な増減補正係数を示し、これによればその適用により適正にして均衡を得た時価の算定を期することができることが認められるから被告が本件更正決定における課税標準を右評価基準に従つて算定したことは誠に相当であつて被告の右評価基準に忠実に従つた処置を目し、杓子定規だと難じ、前記のような「適正な時価」の概念を無視し、自らの特殊事情により低廉な現実の取得価格(証人成瀬敬一の証言により、原告は本件劇場の建築を自らが社長の地位にある金中工業株式会社をして請負わせたことや、鉄骨などは手持の古材を使用したことなどにより、時価よりは相当安く右建物を取得したことが認められる)をもつて課税標準とせよとする原告の見解は採用できない。

又原告は被告が評価基準の適用に当りセメント、砂利及び鉄骨の使用数量を過大に認定した旨主張するのであるが前掲乙第二、三号証と証人小野肇の証言によれば右使用材の数量については原告よりの申告に基き本訴において原告の主張する数量をそのまま認定し、該使用数量に基く補正をなしていることが認められるから原告の主張は理由がないし、鉄骨は古材を使用したのに新品を使用したものと認定したとの主張については証人成瀬敬一、小野肇の各証言により使用鉄骨材が古材か新材かによつて建物の耐用年数に殆ど差異がないことが認められ、さればこそ前記評価基準においても使用鉄骨の新古によつて特別の考慮を払う必要を認めなかつたものと考えられるのであるから原告のこの主張は失当であり、又屋根は木造亜鉛板葺であるのに鉄骨鉄筋を使用したものと認定したとの主張については被告がそのような誤認をした形跡は全くなく前掲乙第二、三号証と弁論の全趣旨により被告は亜鉛板葺であるとの認定を基礎に、評価基準の劇場の部分に該当項目がないところから評価基準の類似の項目たる非木造家屋の事務所、百貨店の建物の基準から転用して算定したことが認められるのでこの点に関する原告の主張も理由がない。更に原告は客席椅子及びボイラーはいずれも動産であるのにこれをも評価の対象に加えたことは違法であると主張し、右のうち客席椅子を課税の対象に加えたことについては当事者間に争のないところであるが劇場の固定客席椅子の如きは地方税法第七十三条の二第四項に謂う「造作その他の附帯設備に属する部分でそれ以外の部分と一体となつて家屋として効用を果しているもの」というを妨げないものであるからこれを課税の対象に加えたことは相当でありボイラーについては前掲乙第二、三号証と弁論の全趣旨によりこれを消却資産に属するものと認めて課税の対象から除いたことが認められるからこの点に関する原告の主張も失当である。

以上のとおり原告の主張はすべて理由がなく、本件異議の決定にはなんら違法のかどがないから原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

(別表省略)

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